新鋭短歌

新鋭短歌シリーズスタート

水野葵以

上坂あゆ美

toron*

一首評

テロップに死は告げられてこの列車は定刻どおり三河安城駅を通過しました。

堀合昇平 2013.08.20

一首評

定型をうまく利用した一首。

本来の5・7・5・7・7というリズムで読もうとすれば、

音読であれ、黙読であれ、下句を読むスピードは自然に上がるはずだ。

そして下句のスピードが上がれば、上句のスピードは相対的にゆるやかに感じられる。

作者はなぜこのように設計したのだろうか。

下句のスピードは、新幹線の車内旅客案内装置を流れる文字のスピードを再現するためのものだろう。そして上句のスピードは、テロップが告げた死を印象付けるためのものだろうと僕は思う。あのテロップには様々なニュースが次々と流れ、誰かの死を告げるものが含まれていることも少なくないが、自分やその周辺に関係がなければ、すぐに忘れ、その死は意識の外へと流れていく。いちいち立ち止まったり、かなしんでいる暇はないし、立ち止まろう、かなしもうとすら思わない。その必要がないことを経験上知っているからだ。はいはいそうですか、あー名古屋に着いたらなに食べよう、と普段はこうである。

だから短歌としてこのように提示されるとはっとするのである。

あなたは、死も三河安城駅も通過しました、と言われているようで。

木下龍也

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