新鋭短歌

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水野葵以

上坂あゆ美

toron*

一首評

雑草とよばれる花を描いていて「おもしろいの?」と訊かれうなずく

陣崎草子 2013.11.07

一首評

写生会。花の構造を丹念に筆で追う作者がいる。詳細に捉えようとすればするほど、自然が生成するフォルムの美しさ、奥深さに気づかされるのだ。しかしその花は名もなき雑草である。よって写生の奥深さを知らない人からすれば、熱心に対象とする価値のないものである。「おもしろいの?」という問いかけは、狂信的に表現にのめり込む者への世間という得体の知れない全体からの冷ややかな眼差しかも知れない。しかし作者は迷わない。頷いてまた作業に戻るのだ。初句から結句まで統一された時間のなかでの動作が淡々と描かれており、意味的な言及は何もない。そのことがかえって作者の思いの強さを伺わせる。定型の不思議な効果に貫かれた一首である。

堀合昇平

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