新鋭短歌

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一首評

遮断機の棒は闇夜に横たわり綿雪ほそく積もりはじめぬ

鯨井可菜子 2013.08.20

一首評

映画のワンシーンのようである。
描写に終始しているためか、人の気配は感じない。
この一首は遮断機の棒と綿雪の静の状態を描写している。
もちろん遮断機の棒はいつまでも横たわっているわけではない。
廃線でない限り、電車を通過させるため、
ほそく積もりはじめた綿雪を音もなくふるい落としながら遮断機の棒は起き上がる。
これが遮断機の棒と綿雪の関係の動の状態。
そしてまた、この歌が描写する静の状態に戻る。
遮断機の棒であることがこの歌のポイントだろう。
静と動の状態のある対象を選ぶことで
描写されたこの景(静)がそのあとに続くであろう
描写されていない景(動)までをも浮かび上がらせ、
雪が降り続ける限り何度でも繰り返されるであろう循環を表現することに成功している。

木下龍也

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