虫武一俊 2016.08.31
「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く 2016.08.26
あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ 2016.08.22
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる 2016.08.17
他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま 2016.08.10
目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光 2016.08.05
おれだけが裸眼であれば他人事に眼鏡交換パーティー終わる 2016.08.02
この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい 2016.07.28
草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか 2016.07.25
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと 2016.07.20
献血の出前バスから黒布の覗くしずかな極東の午後 2016.07.14
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと 2016.07.11
一語一語をちゃんと区切って話されてなにが大事なことだったのか 2016.07.06
電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる 2016.07.01
満開のなかを歩いて抜けてきたなにも持たない手にも春風 2016.06.28
リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら 2016.06.23
あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる 2016.06.20
しあわせは夜の電車でうたた寝の誰かにもたれかかられること 2016.06.15
螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら 2016.06.10
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない 2016.06.03
むしたけ・かずとし / 1981年3月生まれ。
大阪府育ち。
龍谷大学社会学部卒。
2008年夏に短歌を始め、ラジオ番組や雑誌企画への投稿を重ねる。
2012年、うたう☆クラブ大賞(短歌研究社)。
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