新鋭短歌

新鋭短歌シリーズスタート

水野葵以

上坂あゆ美

toron*

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新鋭短歌シリーズ出版記念会 レポート【第二部】

2014.01.28

【第二部 短歌を遠くへ届けたい! 〜これまでしてきたこと、これからできること〜】

パネラー :木下龍也/嶋田さくらこ/田中ましろ

進 行  :堀合昇平

 

 第二部は『短歌を遠くへ届けたい! 〜これまでしてきたこと、これからできること〜』と題したトークセッションで、堀合昇平(未来短歌会所属)の進行により、実践者としての各自の生の声を伝えた。

 田中ましろは歌人集団「かばん」に属しつつネットを中心に活動している。「短歌を読まない人43人に聞きました」というアンケートを実施し、その結果から教科書でなじみのない現代歌人は殆ど知られていない印象を述べた。また短歌雑誌の歌人アンケートでは60代~80代の結社歌人が主流なのに対し、ネット歌人アンケートは20代~40代の無所属歌人で構成されている点を指摘した。歌壇は高年齢化し結社の活動も外側に届いていないのではないか、歌壇人口の減少の懸念も示し、短歌を盛り上げるためには若い層に広く届ける必要性があると語った。「具体的活動としては、ネット上で短歌を募集し写真と短歌をセットにしたフルカラーのフリーペーパー『うたらば』を発行し、現在700部発行で30店舗に置いて貰っている。グラフィックの力で短歌を知らない人のカバンに入れてもらおう」という思いを語った。短歌を広める媒体としてネットは有効で、「例えば一首を450人がツイッターでリツイートすると約20万人の目に触れる計算になる」と紹介した。男性歌人10人のスーツ姿の写真グラビアに短歌連作二十首を配して発行した『短歌男子』も話題になった。ちょっとした遊び心で人に紹介してもらいやすくなることを実感したと言う。

 木下龍也は無所属で、投稿をメインに活動を続けている。木下は投稿へのこだわりについて「短歌は常にいくつかの媒体で募集されており、用意された打席に立たないのはもったいない。すべての打席に立とうと思って投稿を続けている」と語った。「短歌を読まない人でもテレビ・新聞・雑誌・ネットなら目にしてくれるのではないかと思う。第一歌集を出したあとでも自分の意識に変化はなく、短歌外に意識を置いた対外的なプレーヤーでありたい」と述べた。

 嶋田さくらこは、ツイッターで田中ましろの『うたらば』を知って触発され、何かを作るのが好きなこともあり、選歌のある『うたらば』と違うスタンスの冊子『うたつかい』を考えたと言う。ツイッターで知りあった短歌を始めたばかりの人に気軽に参加してもらい全員の歌を無選歌で載せる冊子づくりをしている。モノクロ低コストの『うたつかい』は、現在130人の700~750首を掲載している。投稿者には三冊まで無料で配っており、それぞれが友達や知り合いに配ってくれる。「新聞販売店という家業で使用する輪転機がある限り、今後も多くの歌人の歌を掲載し、ひんぱんに刷って、広めたい」と語った。

 陣崎草子は「かばん」に所属しつつ、絵を描く絵本作家でもあるが、短歌に出会ったことで生きている世界の見え方が変わったと言う。「言葉の外側に個人・社会・歴史の記憶の膨大な情報量があることを強く意識するようになった、また物質の素粒子のふるえと似た性質を言葉に感じ、言葉自体をふるえるエネルギー体と感じるようになった」と述べた。「短歌は人生についての時間の情報量が多く含まれているが、絵本は逆に時間を引いていくことによって原初の段階に近付いていこうとする文芸である。また、短歌に絵や映像をつけると一首の強度が侵食されるようなことも起きてくる。逆に、短歌それ自体が波のように周辺に及ぼす言葉のエネルギー体としての性質を拡張することに興味があり、今後、空間芸術やインスタレーション、メディアアートなどを試行していきたい」と語った。

 堀合昇平はこれらの発表を受け、短歌を知らない・興味がない人により多く短歌を届けることを横軸とし、一首一首の表現をより深くするのを縦軸ととらえた場合の、その関係について掘り下げを試みた。田中・嶋田のようなツイッターを軸とする活動は短歌を通じて仲間に出会う側面の魅力が強く、一方、結社は表現を深める点に軸足があるのではないか、結社の歌会では厳しいことを言い合うし「殴りあってわかりあう」イメージがある、と語り、マイペースの状態からいきなり加藤治郎の監修を受けた嶋田の体験を訊ねた。

 嶋田はそれまでは、ただ楽しく短歌をつくっていただけだったので自分に自信がなかったが、的確なアドバイスを貰えたし、「教えて頂ける」という安心感が自信につながったと答えた。

 堀合はまた、「より広く」と「より深く」の両立は可能かを田中と木下に問うた。

 田中は「表現を深めてない短歌が読者を獲得できるのか、と常々思っている。各自が自分の中で短歌を磨く作業をしている。結社の方は普段からその鍛錬をしているので、それを『うたらば』に投稿していただけたら、短歌を広める力になる。ぜひ協力をお願いしたい」と述べた。

 木下は「短歌は定型に言葉を収めた時点で歴史性にとりこまれ、勝手に表現が深くなっていくような気がして、それをなるべく軽くし、気取らなさを出せるように研究している。短歌が上空に向かっていくほど読者は減っていくのではないか。上空を見上げるようなものでもなく深海を覗くようなものでもなく、ポケットに入れていつでも手に取ることができるような軽さを目指している」と語った。

 これに関連し陣崎は、「すばらしい表現を見た時、神様がいると思う。自分がどれだけそこから遠くにいようと生きている間に一歩でもいいから近付きたい。私達はそれぞれ違う旅をする旅人である。各自がそれぞれの道をより遠くまで旅をし、マーキングをしてくる。それが結果的に短歌を遠くに届ける、ということにつながる」と語った。

 第二部のセッションは、短歌の裾野を広げるさまざまな取り組みを紹介するとともに、短歌への各自のスタンスを問い直す議論となった。

(第二部 岸原さや・記)

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