奥村知世 2021.09.14
耳栓の刺さる深さが違う耳並んで進む解体工事 2021.09.09
子を抱いて眠った腕で真昼間はモーターを抱きケーブルを抱く 2021.09.06
秋雨に濡れて濃くなる木の色の木製パレット出荷されゆく 2021.09.01
教材として触られてカブトムシ脚を一本どこかに落とす 2021.08.27
自動車の服ばかり着る息子らは道路だ、とても短い私道 2021.08.24
夕暮れの砂場を掘れば少しずつ獣の手足になる息子たち 2021.08.19
蒙古斑はユーラシアのごとひろびろと息子のお尻はおすわりを知る 2021.08.16
胴体を丸ごと震わせ泣いている兄弟ビオラとバイオリンのごと 2021.08.11
肉体が肉体とおりゆく音を聞いて胎児は光に出会う 2021.08.05
麻酔まえ最後の胎動ひとつあり今から産まれるとも知らないで 2021.08.02
ガスコンロに並べて焼かれるサンマたち海ではきっと他人であった 2021.07.28
3Lのズボンの裾をまるめ上げマタニティー用作業着とする 2021.07.21
近づけばよりひかれあう寂しさはファンデルワールス力の正体 2021.07.16
チーチーと倉庫に鳥の声がして扉を開けたままに立ち去る 2021.07.13
ミドリ安全帯電防止防寒着「男の冬に!」の袋を破る 2021.07.08
軍手越しに触れて昇温確かめる子どもの額に手をやるように 2021.07.05
実験室の壁にこぶしの跡があり悔しい時にそっと重ねる 2021.06.30
女でも背中に腰に汗をかくごまかしきかぬ作業着の色 2021.06.25
鈍色のスクリューパーツをひとつずつブラシでこする子の歯のように 2021.06.22
おくむら・ともよ
2015年より短歌結社「心の花」に所属。第29回歌壇賞次席。第2回群黎賞受賞。
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