櫻井朋子 2022.01.07
ハムスター埋められていく春の庭しずかな父の背に花は降り 2022.01.04
泣かなくてもわたしはきれい剥ぎ捨てたコンタクトレンズに残る夜半の灯 2021.12.28
あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計 2021.12.23
枯れるのも咲くのも花の意志ならばわたしの体はだれの福音 2021.12.15
絶倫と殴り書かれたふるさとの駐輪場で安堵して泣く 2021.12.10
こさめこさめ 永遠のその翌朝も朝顔日記は白紙のままで 2021.12.07
アラームへ伸ばした腕がきみにさえ触れない朝の永い背泳ぎ 2021.12.02
乗り換えるだけの人らも抱きとめて飯田橋駅ゆるく傾く 2021.11.26
一歩ずつ脱ぎ捨てていくサンダルのごときクリップ海に焦がれて 2021.11.24
母さんの自作だったと後に知るお伽話で燃えていた町 2021.11.18
ああ人を殴ったことのある手だ、と豆腐を掬う所作に思えり 2021.11.15
言わないで火を点けないでまなうらに金平糖のなだらかな棘 2021.11.10
天気図のそこだけ曇っているような実家の犬について話した 2021.11.05
凍りかけた氷の中で揺れる水わたしの臓器はわたしが嫌い 2021.11.01
くるぶしは小さな果実 夕闇に熟れゆくきみを起こせずにいる 2021.10.27
「羽毛布団」みたいな名前の人だった思い出せないそれが愉しい 2021.10.22
アスパラを剥けばナイフは濁りゆき許せなかった横顔のこと 2021.10.19
お茶筒がふすりと閉まる瞬間もいつか死ぬって信じきれない 2021.10.14
さくらい・ともこ
1992年生まれ。
2017年、新聞歌壇に投稿を始める。
同年、東京歌壇(東京新聞・東直子選歌欄)年間賞。
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