笹井宏之 2013.10.02
葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある 2013.09.27
押し花のキーホルダーをはじきつつあなたは風のやうに笑つた 2013.09.24
眠りから覚めても此処がうつつだといふのは少し待て鷺がゐる 2013.09.19
ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒 2013.09.16
ふるさとは唄そのものであるゆゑに今宵も我はうたはれてをり 2013.09.11
あすひらく花の名前を簡潔に未来と呼べばふくらむ蕾 2013.09.06
雨といふごくやはらかき弾丸がわが心象を貫きにけり 2013.09.03
冬ばつてん「浜辺の唄」ば吹くけんね ばあちやんいつもうたひよつたろ 2013.08.29
廃品のなかでひときはたくましく空を見上げてゐる扇風機 2013.08.26
さたうきび畑の唄をうたひきり夏大根ざくりときざむ母 2013.08.21
鬼百合が鬼に戻つてゆくさまを尼僧のやうな眼で見つめをり 2013.08.16
八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり 2013.08.13
真夜中の墓地あたたかし どのつちの下にも生の時間が眠り 2013.08.08
木の間より漏れくる光 祖父はさう、このやうに笑ふひとであつた 2013.08.05
秋雨の国見の山を仰ぎつつポンと手の甲へおく手のひら 2013.08.02
群るることああ忘れたというような目をひらきおり我が曼珠沙華 2013.08.02
三日目の朝に結句が降るという予報みごとに外れいて晴れ 2013.08.02
想うとは夏の動詞か汗と汗の
味付きの海苔が好きとか嫌いとかそんな話の出来る食卓 2013.08.02
ささい ひろゆき
1982年8月1日 佐賀県西松浦郡有田町泉山に生まれる。
2004年 短歌を作りはじめる。
2005年10月 連作「数えてゆけば会えます」で第四回歌葉新人賞を受賞。
2007年1月 未来短歌会に入会。加藤治郎に師事。同年度、未来賞受賞。
2008年1月25日 第一歌集『ひとさらい』(Book Park)刊行。
2009年1月24日 自宅にて永眠。
2011年1月24日 『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)、
第一歌集『ひとさらい』、第二歌集『てんとろり』(ともに書肆侃侃房)刊行。
ブログ「些細」 http://sasai.blog27.fc2.com/
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