鈴木晴香 2016.10.28
自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏 2016.10.27
欄干のそこだけ雨に濡れないで牛若丸はまだそばにいる 2016.10.26
動き出す窓から見えるどうしようもなくどうしようもない君の顔 2016.10.25
きっと君の本当の彼女もよく動くその喉仏に触れるのでしょう 2016.10.24
分け合った炭酸水が体液になるまで君を見送っていた 2016.10.23
沿線に縷々と干されているシャツのどれも白くてどこへ帰ろう 2016.10.22
おたがいの体に等高線を引くやがて零メートルのくちづけ 2016.10.21
降る雪は白いというただ一点で桜ではない 君に会いたい 2016.10.20
残像の美しい夜目を閉じた後の花火の方が大きい 2016.10.19
黙ることが答えることになる夜のコインパーキングの地平線 2016.10.14
開かれて光ってしまう淡水魚それとも躰 月の脱衣所 2016.10.11
駅からの道は駅までの道になる言えないことを言えないままで 2016.10.05
交番の前では守る信号の赤が照らしている頰と頰 2016.09.30
春の闇乳房はすこし冷たくて柔らかいもの 指が驚く 2016.09.27
君の頰に「は」と書いてみる「る」は胸に「か」は頭蓋骨に書いてあげよう 2016.09.21
悲しいと言ってしまえばそれまでの夜なら夜にあやまってくれ 2016.09.15
君の手の甲にほくろがあるでしょうそれは私が飛び込んだ痕 2016.09.12
レトルトのカレーの揺れる熱湯のどこまでもどこまでも透明 2016.09.07
非常時に押し続ければ外部との会話ができます(おやすみ、外部) 2016.09.06
すずき・はるか / 1982年東京生まれ。慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業。
2012年、雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「短歌ください」への投稿をきっかけに短歌を始め、同年10月に塔短歌会入会。
2015年第五十八回短歌研究新人賞最終選考通過。
2016年京都大学東一条会Ton-Ichi Talkにて講演。
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