土岐友浩 2015.08.06
この道が暗くなったらぴかぴかの雪をあなたの役に立てたい 2015.08.04
まるでそこから浮かび上がっているようなお菓子のそれでこそビスケット 2015.07.31
暗くしたホールのなかのいちまいのスライドに映されるみずうみ 2015.07.29
フルーツのタルトをちゃんと予約した夜にみぞれがもう一度降る 2015.07.27
例えれば冬のカラオケボックスの電話口から伝える言葉 2015.07.23
つま先を上げてメールをしていたらかかとで立っていたと言われる 2015.07.21
人びとが代わるがわるに手を伸ばし橋から突き落とされたひかり 2015.07.17
この街でもしもあなたとはぐれたらリンデンの木を目印にする 2015.07.15
八月の僕だけがいる教室の机のかどではじけたひかり 2015.07.13
本棚が足りなくなって生活のところどころに本はあふれる 2015.07.09
ぴったりの場所はどこにもないけれど海の浅瀬をあなたは歩く 2015.07.07
公園がいちおうあって森があるあなたが蛇を見たという森 2015.07.03
すずかけの枝葉に傘がぶつかっていちめんにシルエットをおとす 2015.07.01
ヴォリュームをちょうどよくなるまで上げる 草にふる雨音のヴォリューム 2015.06.29
摘みとった白詰草のくびすじの、リラックマとかもう飽きました 2015.06.25
ゆびさきに春の砂糖をつけながらドーナツの輪をちぎる仕草は 2015.06.23
空白について考えようとしてそのひとが立つ窓辺を思う 2015.06.19
そのひとは五月生まれで「了解」を「りょ」と略したメールをくれる 2015.06.17
勧めようとしている本を読み返す傘とかばんを近くに置いて 2015.06.15
とき・ともひろ
1982年8月、愛知生まれ。歌人、精神科医。京都大学在学時に「京大短歌」に入会し作歌をはじめる。2009年、瀬戸夏子、服部真里子、平岡直子、望月裕二郎、吉岡太朗の5人と同人誌「町」を立ち上げる。同誌は2011年に歌集『町』を発表し、解散。2013年より同人誌「一角」を個人発行している。2015年、連作 “WALK ALONE” 30首が第26回歌壇賞候補作品に選ばれる。
ラインナップ